HPVとは

HPVとは、Human PapillomaVirus(ヒトパピローマウイルス)のことです。パピローマウイルスは人の表皮に感染することでイボをつくることで知られていたウイルスですが、ドイツの研究者のツアハウゼン博士が、子宮頸癌に共通して検出されるHPVを発見し、それが発癌のリスクになることを発表しました。この発見から一気に研究が進み、現在わかっているだけでも14種類のHPVが発癌の原因になり、HPVが性行為で子宮頸部に感染し、それが数年から10年という年月をかけて前がん病変~子宮頸癌に至るメカニズムが明らかになりました。

HPV感染から発癌まで

HPVはありふれたウイルスであり、すべての女性のおよそ8割が人生のどこかでこのHPVに一度は感染することがわかっています。感染したすべての女性が子宮頸癌にならない理由は、ほとんどの女性においてこのHPV感染は自然に治癒する一過性のものに過ぎないからです。しかしながら、このHPV感染がなかなか治らない一部の女性においては、数年をかけて子宮頸部に癌の前の状態(前がん病変)になってしまいます。この前がん病変を子宮頸部異形成といい、軽度~中等度~高度~上皮内癌と子宮頸癌にむけて進行していきます。一番軽い軽度異形成の状態ではおよそ9割の女性が何もしなくても自然に治ってしまいますが、高度異形成まで進行してしまうとほとんど自然治癒は期待できず、そこから上皮内癌を経て、浸潤癌である子宮頸癌になってしまいます。HPV感染から子宮頸癌に至るまでの期間は通常数年から10年と長期間であるため、この期間の間に前がん病変や初期の癌をみつけて治療をしましょうというのが、一般的な子宮頸癌検診の目的になります。そのため、多くの検診施設では1~2年の間隔で子宮頸癌検診が推奨されています。この検診を、癌の二次予防といいます。二次予防は癌を早期に発見して、その死亡率を下げることを指します。

一次予防としてのHPVワクチン

では、小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象に定期接種が必要とされているHPVワクチンとはなんでしょうか?HPVワクチンは、HPVに対する免疫をつけてHPV感染を予防するワクチンです。HPVワクチンのHPV感染を予防する効果は素晴らしく高く、正しく接種を行えば、ターゲットとなるHPV型の感染をほぼ100%防ぐことができます。実際にHPVワクチンを接種した女性ではHPVに関連した子宮頸癌の発生がなかったとされる驚くべき研究結果が報告されています。日本における報告でもHPVワクチンを接種されていた世代と、副反応騒ぎで接種できていなかった世代の比較では前がん病変の頻度がワクチン接種群で明らかに低いことが報告されています。二次予防の目的が検診で癌を早期発見することに対して、このように発癌の原因を除去し、癌を未然に防ぐことを癌の一次予防といいます。しかしながら、このワクチンにも注意すべき点があります。それはすでに感染しているHPVには効果がないことです。そのため、性交を経験する前の女性に対してワクチンを打つことがワクチンの効果を最大限に生かすために必要です。定期接種が小学校6年生~高校1年生相当の女子と限定されているのは、恋愛して性交渉を経験する前にワクチンを接種する必要があるからです。

副反応問題について

HPVワクチンが世界に引き続き、日本で導入されたHPVワクチンでしたが、定期接種開始後しばらくしてけいれん発作を伴う激しい副反応やそのあとの疼痛の後遺症などの副反応があるのではないかとテレビを中心にセンセーショナルに報道されていたことが記憶に新しいのではないかと思います。どうして、世界で報告されていない副反応が日本でのみ報告されているのか、本当にそれらすべての症状はHPVワクチンが原因なのか、誰も答えが出せないまま、HPVワクチンの定期接種の接種勧奨が中止されてしまい、この間に多くの女性がHPVワクチンを打つ機会を奪われる結果となりました。この副反応疑いについては、その後の追跡調査によりHPVワクチンを打ってない方にも同様の症状を示す方が一定数いたことからもワクチンとの因果関係はないことが証明されました。もちろん本当にワクチンの副反応で苦しんでいる方がいるのも事実です。しかし、その割合は他のワクチンと比較しても多いわけではなく、報告されていたほとんどの症状はワクチンの副反応ではなく、ただの紛れ込みだったことが明らかになりました。そのことがきっかけでHPVワクチンの定期接種勧奨が再開され、多くの女性が再びHPVワクチンを接種できるようになりました。さらに接種勧奨が中止されていた期間にワクチンを接種できなかった女性への補償として平成9年度~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)(※2)の女性で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方へのキャッチアップ接種が始まっています。このように副反応に関してはあまり心配をする必要はなく、むしろ非常に安心なワクチンだということがあきらかになりました。

日本におけるHPVワクチンの効果

ワクチンの副反応問題が起きて、ワクチン接種勧奨が中止された時期です。このままでは日本女性の子宮頸癌が増えていってしまうのでなんとかしなくてはならない!

と思った、田舎の大学院生がいました。坂本人一という人らしいです。

HPVはわかっているだけで40種類以上の型が報告されており、その中で発癌の原因になるタイプが14タイプと言われています。しかし、国によって発癌HPVの分布がそれぞれ異なっており、日本の子宮頸癌に多いHPV型の検証は十分とはいえませんでした。某大学院生某sakamoto Jは日本でもHPVワクチンの効果が立証されれば、HPVワクチンの接種勧奨再開につながるぞと考え、臨床業務が終わった後、夜な夜な研究室で日本中の子宮頸癌を調べました。そして、たくさんの方々に助けてもらいながら続けた結果、数年かけてすべてのHPV型の分布をあきらかにすることができました。

以下が結果です。

ガーダシルもしくはサーバリックスの対象のHPV型は全体の65.4%、シルガード(9価ワクチン)では子宮頸癌全体の88.2%がカバーされています。(Sakamoto J.)

これは9価ワクチンを打つだけで日本の子宮頸癌の88%が予防できるということが示唆しています。

MSD connect 子宮頸がんとHPV感染

他二つの研究報告でも同様の結果でした。9価ワクチンは日本人の子宮頸癌の81~90%を予防することが示唆されました。

厚生労働省 ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~

このように、HPVワクチンは子宮頸癌予防にすさまじい効果を発揮します。ワクチンを打つだけで防げる癌は子宮頸癌くらいだと思います。HPVを発見してくれた研究者の方々、人生を捧げてワクチン開発に携わってくれた研究者の方々にお礼を言いたいです。

子宮頸癌の患者さんをたくさん診ている医者から伝えたいこと

子宮頸癌は比較的若い世代の女性に多い癌です。この世代の女性は仕事に育児に、毎日忙しい日々を過ごしています。自分より周りを優先する結果、どうしても自分のことが後回しになりがちな世代です。たまたま運よく早期に癌が見つかり治療がうまくいったとしても、子宮をとればもう子供を産むことはできませんし、放射線治療をすれば重度の後遺症に苦しみます。気づかないうちに癌が進行して取り返しのつかないことになってしまった患者さんもたくさん診てきました。闘病のせいでやりがいのある仕事ややりたいことがあるのにそれができない無念さ、小さな子供や家族を残して亡くなることへの恐怖と悲しさを想像してみて下さい。毎日一生懸命生きてるだけなのにどうして癌になって苦しまなければいけないのでしょうか。こんな病気はあってはならないと思います。

子宮頚癌は撲滅可能な病気です。

子宮頸癌はHPVワクチンと検診によって防ぐことができます。

定期的に検診を受けて下さい。

大切な娘さんにHPVワクチンを接種させてあげて下さい。

よろしくお願いします。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!