HPVワクチンは本当に安全ですか?

一時期、HPVワクチンの副反応問題がマスコミなどで過激に報道されていたことが記憶に新しいかと思います。ワクチンの副反応でけいれん発作を起こしている女の子の非常にショッキングな映像が毎日テレビに流れて非常に怖いワクチンであると思われている人が日本にはいまだに大勢いらっしゃると思います。その報道をみて驚いたのは一般の方だけではなくて、我々産婦人科医も非常に驚きました。なぜなら、世界中のどの国でも報告されていない副反応が、なぜ日本でだけ多く報告されているのか?その当時は誰もその答えを持ち合わせていなかったからです。安全性が十分に確認できないとの理由で、その後にHPVワクチン接種の積極的勧奨の文面がなくなってしまい、10年近くもの間、日本のHPVワクチン接種率がほぼ0%になってしました。この10年間に、この世代の女性のほとんどがワクチンの恩恵を受けることができなかったのは非常に残念な結果でした。

結論からいいますと、HPVワクチンは非常に安全です。この10年の間に、厚生労働省が行ったHPVワクチンの安全性に関する徹底的な全国疫学調査でHPVワクチンの安全性は確認されました。データは以下の引用の通り、公的機関によって公開されております。

全国疫学調査(祖父江班)結論

①HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を呈する者が、一定数存在した。
②本調査によって、HPVワクチン接種と接種後に生じた症状との因果関係は言及できない。

Fukushima W et al. J Epidemiol. 2022; 32: 34-43
厚生労働省 2016年12月26日 第23回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料4
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000147016.pdf (Accessed Mar. 14, 2023)

上記以外にもNAGOYA STUDY副反応疑い報告追跡調査などの大規模調査で上記と同じ結論が得られました。上記の追跡調査の結果から、ワクチンを打ってる人も打ってない人も同じくらいの確立で疼痛や意識消失やしびれ、けいれん発作などの症状がこの世代の女性には起こります。もともと思春期女性には立ち眩みや失神などの症状がおこりやすい上に、副反応に対する恐れや不安、そして筋肉注射特有の痛み(HPVワクチンはとくに痛いです)から反射的に上記の症状が出現してしまい、それがHPVワクチン独特の副反応であると考えられたことが副反応騒ぎの核心でした。ちなみに9価HPVワクチンの重篤な副反応は接種1万人あたり約3人で、インフルエンザワクチンの重篤な副反応は接種1万人あたり約15人です。先進国では多くの女性がHPVワクチンを接種しています(海外のHPVワクチン接種率:アメリカ61%、カナダ87%、イギリス83%、オーストラリア82%)が、重篤な副反応が問題になったことはこれまでありません。この客観的なデータをみてもHPVワクチンは本当に危険なワクチンだと思うでしょうか?

もちろん、どのワクチンにおいても重篤な副反応が出る可能性はごく僅かかもしれませんが存在します。本当にHPVワクチン接種後に重篤な副反応に苦しんでいる患者さんも確実にいます。そういった方への保証や治療は本当に手厚く行われなければならないことは言うまでもありませんが、客観的に正しい情報を確認して頂いて、大切な娘さんにHPVワクチンを接種するかどうか十分に検討して頂きたいと思います。

2価ワクチンと9価ワクチン、どちらを打つべきですか?

HPV(ヒトパピローマウイルス)には様々な種類があり、癌になりやすい種類が特定されています。HPVワクチンはそれぞれのワクチンが対応している種類のHPV感染を防ぎ、その結果として、将来の子宮頚癌を未然に防げることがわかってきています。

現在、日本国内で使用できるワクチンは2価ワクチン(サーバリックス)4価ワクチン(ガーダシル)9価ワクチン(シルガード)の三種類です。対応するHPVの種類は以下です。

HPVワクチン対応しているHPVの種類
2価ワクチン(サーバリックス)HPV16、HPV18
4価ワクチン(ガーダシル)HPV6、HPV11、HPV16、HPV18
9価ワクチン(シルガード)HPV6、HPV11、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33、HPV45、HPV52、HPV58

どのワクチンにも含まれているHPV16、HPV18は子宮頚癌の原因として最も多い種類(子宮頸癌の64.9~71.2%)であり、このワクチンを打つことでおよそ7割の子宮頚癌を未然に防ぐことができます。一方で、4価ワクチンと9価ワクチンに含まれるHPV6とHPV11は子宮頸がんの原因になることはないですが、性感染症である尖圭コンジローマの原因になります。コンジローマは一度できると非常に難治性で再発を繰り返す特徴があり、QOLを大幅に損ねるばかりか、性行為の際にパートナーへ感染させてしまうリスクが高い病気です。9価ワクチンは4価ワクチンに加えて、子宮頚癌の原因になるHPV31、HPV33、HPV45、HPV52、HPV58の感染を防ぐことができます。そのため、9価ワクチンの方が防げるHPVの種類が多く、81~90.7%の子宮頚癌の原因を防ぐことができます。

そのため、どのワクチンを接種しても高い効果が期待できますが、接種できるワクチンを選べるのであれば、性感染症のコンジローマも予防できて、より多くの子宮頚癌の原因ウイルスを予防できる9価ワクチン(シルガード)の接種を選択するのがよいのではないかと考えます。

HPVワクチンの対象になる人は誰ですか?

HPVワクチンは日本脳炎やBCG、四種混合ワクチン、麻疹風疹ワクチンなどと同じ定期接種のワクチンです。インフルエンザやコロナワクチンなどの任意接種のワクチンと違い、定期接種のワクチンは接種した記録を母子手帳に記載する必要があります。定期接種は小児期にすべて接種し終わると思われている方も多いかもしれませんが、このHPVワクチンも同じ定期接種のワクチンですので、接種の記録を母子手帳に記載する必要があります。

他の定期接種ワクチンとの大きな違いは、接種対象者が小学校6年~高校1年相当の女子と接種年齢が比較的に高いことです。

なぜ小児ではなくこの年代で定期接種を行うかというと、HPV感染のきっかけである性交渉を経験する前の女性に接種を行うことで、性交渉を多く経験する10代後半~20台、30代にウイルス感染に対する強い免疫をつけてHPV感染を確実に防ぐためです。

性交渉後にすでにHPV感染している女性からHPVを排除する効果がワクチンにはありませんので、最大限のワクチンの効果を得るためには「性交渉を経験する前」の女性に接種する必要があります。そのため、小学校6年~高校1年相当の女の子とその保護者の方は接種の機会を逃さないように注意しましょう。

HPVワクチンの接種スケジュールを教えて下さい。

HPVワクチンの接種スケジュールは決まっています。接種するワクチンや年齢によって、接種のタイミングや回数が異なりますが、決められたスケジュール間隔で既定の接種を終えることが望ましいです。

※1: 1回目と2回目の接種は、少なくとも5か月以上あけます。5か月未満である場合、3回目の接種が必要になります。
※2・3: 2回目と3回目の接種がそれぞれ1回目の2か月後と6か月後にできない場合、2回目は1回目から1か月以上(※2)、3回目は2回目から3か月以上(※3)あけます。
※4・5: 2回目と3回目の接種がそれぞれ1回目の1か月後と6か月後にできない場合、2回目は1回目から1か月以上(※4)、3回目は1回目から5か月以上、2回目から2か月半以上(※5)あけます。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html

キャッチアップ接種とはなんですか?

これまですべての期間でHPVワクチンは定期接種でしたが、HPVワクチンの接種勧奨が差し控えられていたことと、ワクチンに対するネガティブキャンペーンが過度に行われていたことより、平成9年度~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性の中には対象の年齢のときに定期接種の機会を逃して接種できていない方が大勢います。キャッチアップ接種とは、これらの方にも公平にワクチンの定期接種の機会を保障するものになります。

キャッチアップ接種の対象となる方は以下の要件を満たす方です

  • 平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性(※1)
  • 過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない(※2)

※1 令和5年4月からは、平成18年度生まれ(誕生日が2006年4月2日~2007年4月1日)の方もキャッチアップ接種の対象になります。また、平成19年度生まれ(誕生日が2007年4月2日~2008年4月1日)の方も、通常の接種対象の年齢(小学校6年から高校1年相当)を超えても、令和7(2025)年3月末まで接種できます。
※2 過去に接種したワクチンの情報(ワクチンの種類や接種時期)については、母子健康手帳や予防接種済証等でご確認ください。

接種が受けられる時期

接種の対象に該当する方は、令和4(2022)年4月~令和7(2025)年3月の3年間、HPVワクチンを公費で接種できます。

キャッチアップ接種を受けるための手続き

具体的な接種方法は、住民票のある市町村からお知らせが届きますので、そちらをご覧ください。
また、過去に受けた接種回数や時期により、接種方法が異なる場合があります。できるだけ母子健康手帳を確認・持参して、市町村や医療機関に相談してください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_catch-up-vaccination.html

キャッチアップ接種のよくある質問

  • 通常の定期接種の時期を過ぎて接種しても効果がありますか?
    • 定期接種の年齢を過ぎて接種を行ってもある程度の効果があることが国内外で報告されています。すでに性交経験がある場合はワクチンの予防効果が減少することが示されていますが、ワクチンの予防効果がなくなるわけではないので接種する利益はあると考えます。性交経験のある女性は、ワクチン接種だけではなく、定期的な子宮頚癌検診を受けることが大切です。
  • 過去にHPVワクチンを1回または2回接種した場合はどうすればいいですか?
    • 1回接種した方は残り2回を、2回接種した方は残りの1回を公費で接種を受けられます。過去にHPVワクチンを打って時間が経過している場合も、1回目から打ち直す必要はなく、残りの接種回数を以降のスケジュール通りに行えばいいです。
  • 過去に2価(もしくは4価)ワクチンを1回接種したのですが、残りのキャッチアップ接種は9価ワクチンを接種してもいいですか?
    • キャッチアップから9価ワクチン(シルガード)に変更して公費でワクチン接種を受けることが可能です。その場合の接種スケジュールは9価ワクチンのスケジュールに合わせます。

キャッチアップ接種の世代の女性の多くは、進学や就職で実家を離れている方が多くいます。住民票を移してなければ現在の居住地ではなく、実家宛てに接種のお知らせが届いてしまうので接種の機会を見逃しがちです。ご自身が対象世代の女性は、ワクチンの接種を受けたかどうか、ご自宅にキャッチアップ接種のお知らせが届いていないかどうか今一度ご確認ください。

石川県の各自治体のHPVワクチン接種について教えて下さい。

石川県の各自治体のHPVワクチン接種状況が記載されている公式サイトを添付します。

全国と石川県における現在の接種状況を教えて下さい。

全国も石川県も、令和4年4月にHPVワクチン接種の積極的勧奨が再開してから、接種される方が確実に増加しています。女性の健康と明るい未来を守るために、今後もワクチン接種率が増加させていくことが大切です。

石川県ホームページ HPVワクチンについて

HPVワクチンをこれから受ける女の子に知っておいてほしいことはありますか?

過去の副反応騒ぎに対して、過度な不安や恐怖を感じるとワクチン接種のときに迷走神経反射などの様々な身体症状が出るきっかけになってしまいます。とくに多感な思春期の女性にはこういった反応が出やすいので、これから接種を受ける女の子には以下のポイントを十分に理解してもらい、安心してワクチン接種を受けて頂きたいと思います。

HPVワクチンを受ける際に十分に理解しておいてほしいこと

  1. けっして怖いワクチンではなく、非常に安全性が高いワクチンであること
  2. 将来の子宮頚癌のリスクを大幅に減らしてくれるワクチンであること

最後に

HPVワクチンに関するよくある質問をまとめました。

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

私たちのクリニックでは、子宮頚癌撲滅のためにHPVワクチン接種率を向上させること、さらに子宮頚癌検診の受診率を向上させることが女性の健康を守る上で非常に重要なミッションと考えています。

当院では、石川県すべての自治体のHPVワクチン接種クーポンと子宮頚癌検診クーポンの使用が可能になる見込みです。ワクチンに対する不安なお気持ちや疑問に寄り添った診療をさせて頂きます。大切な娘さんのHPVワクチン接種は当院にお任せ下さい。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!