スリンダ錠とは何か(成分・作用機序)

スリンダ錠28(スリンダ錠)は、日本初のエストロゲンを含まない経口避妊薬(いわゆる「ミニピル」)です。有効成分はドロスピレノン4mgのみで、これは黄体ホルモン(プロゲスチン)に属する合成ホルモンです。ドロスピレノンは利尿薬スピロノラクトンの誘導体で、黄体ホルモン作用に加えて抗ミネラルコルチコイド作用(体内の水分保持を抑える作用)や抗アンドロゲン作用(男性ホルモンを抑える弱い作用)を持つ特徴があります。従来の低用量ピル(LEP/OC)はエストロゲンとプロゲスチンの2種類のホルモンを含む「混合型」でしたが、スリンダ錠はエストロゲンを一切含まない単剤型のピルです。このためエストロゲンに起因する副作用(吐き気や頭痛、むくみなど)のリスクが低減されることが期待できます(※実際に吐き気は臨床試験で約5%程度に報告されています)。また、有効成分が一定量のためホルモン量の変動が少なく、体への負担がマイルドな点も特徴です。

作用機序: スリンダ錠はドロスピレノンの働きにより、以下のようなメカニズムで避妊効果を発揮します

  • 排卵の抑制: 卵胞の成熟・排卵を司るLHサージ(黄体形成ホルモンの急上昇)を抑えて、卵巣から卵子が放出されるのを防ぎます。実際、国内臨床試験でも服用中の血中黄体ホルモン濃度が排卵発生の基準値を超える例はなく、確実な排卵抑制作用が示されています。
  • 子宮内膜を薄く保つ: 子宮内膜が厚く成長しないように作用し、受精卵が着床しにくい状態にします。海外試験ではスリンダ錠服用13周期後に子宮内膜の厚みが有意に減少していたとの報告があります。
  • 子宮頸管粘液の粘度上昇: 子宮頸部の粘液を濃くどろっとした状態に変化させ、精子が子宮内に侵入しにくくします。服用2周期後には頸管粘液の粘度スコアが低下(=粘液が高粘度化)することが確認されています。

このようにスリンダ錠は排卵抑制子宮内膜の菲薄化頸管粘液の変化という3つの作用で高い避妊効果を発揮します。エストロゲンを含まない分、従来のピルに比べてホルモンバランスの乱高下が少なく、体質的にエストロゲンが合わなかった方にも使用しやすい新しい選択肢といえます。

スリンダ錠の避妊効果とメカニズム

避妊効果の高さはスリンダ錠の大きな魅力です。臨床試験で算出されたパール指数(避妊失敗率)は約0.39と報告されており、100人の女性が1年間スリンダ錠を正しく使用した場合に妊娠する人が0.4人程度という計算になります。これは従来の低用量ピル(パール指数約0.3~0.9)と同等の極めて高い避妊成功率(約99%以上)です。実際、日本での第III相臨床試験では3319周期の服用期間中に妊娠例は1例のみ(3日間連続の飲み忘れがあった方)で、避妊効果が十分に確認されました。

ただし、避妊効果を最大限に発揮するには毎日忘れずに正しく服用することが重要です。一般にピルの現実的な失敗率は、飲み忘れなど「一般的使用」で7%程度と報告されています。スリンダ錠も同様に、飲み忘れや服用時間の大幅なズレがあると妊娠リスクが高まります。特に24時間以上の飲み忘れは効果低下に直結しますので注意が必要です。避妊効果のメカニズム上、1日でも飲み抜けると排卵抑制や粘液の変化が不十分になる可能性があるためです。

スリンダ錠は1シート28錠入りで、24錠が有効成分入りの白色錠、残り4錠が偽薬(プラセボ)で淡黄色錠となっています。月経開始日の1日目から服用を開始し、毎日1錠ずつ同じ時間に28日間連続で飲み続けます。28日間(1周期)の服用後、休薬期間を置かずに次のシートを開始します(淡黄色の4錠が実質的に生理期間に相当します)。この24日連続+4日休薬のサイクルにより、ホルモンが安定供給されつつ月に1度の消退出血(生理様の出血)を起こす設計です。消退出血は人によっては軽くなったり起こらないこともありますが、いずれにせよ避妊効果は休薬中も持続しますのでご安心ください。

まとめると: スリンダ錠は正しく服用すれば従来のピルに匹敵する避妊効果を発揮します。その効果を十分得るために、決められた順番で毎日決まった時間に飲み忘れなく服用することが大切です。万一飲み忘れた場合は気づいた時点で直ちに服用し、その日の分も通常通り服用してください。また2日以上連続で飲み忘れた場合は、その周期の避妊効果は大きく低下しますので速やかに服用を中止して次の生理を待ち、再開するよう指示されています。飲み忘れが2日以上続いた場合や不安な場合は、その周期は必ずコンドームなど他の避妊法を併用してください。

月経困難症やPMSに対する効果

スリンダ錠は「避妊」を主目的としたピルですが、その作用メカニズムから月経困難症(生理痛)やPMS(月経前症候群)の症状改善も期待できます。ドロスピレノンの排卵抑制効果で卵巣からのホルモン分泌が安定し、排卵が起こらない周期は月経痛が軽減する傾向があります。実際、スリンダ錠を服用中は卵巣が休止状態になるため生理自体が起こらないか、起こっても子宮内膜が薄いため出血量が非常に少なくなります。その結果、生理に伴う下腹部痛や腰痛、頭痛などの月経困難症状が和らぐ可能性が高いのです。またホルモン変動が抑えられることで、月経前のイライラや気分の落ち込み、むくみなどPMSの症状改善も期待できます。

ただし、スリンダ錠は現時点で月経困難症の治療薬として公的承認・保険適用されているわけではありません。あくまで「経口避妊薬」としての承認であり、生理痛やPMS改善は付随的なメリットです。そのため月経困難症の治療目的で処方する場合も自費診療となります(保険適用外)のでこの点はご注意ください。しかし、「低用量ピルは合わなかったけれど生理痛を和らげたい」「ピルでPMSを改善したかったが禁忌と言われた」という方にとって、スリンダ錠は避妊と同時にそうした月経にまつわる症状の軽減も望める一石二鳥の新しい選択肢となりえます。実際、海外ではミニピルがPMS対策や月経管理にも広く用いられています。生理痛やPMSでお悩みの方は、避妊目的に限らず一度ご相談いただければと思います。

従来のピルとの違い(エストロゲン非含有のメリット)

最大の違いは、エストロゲン(卵胞ホルモン)を含まない点です。従来の低用量ピルはエストロゲン+プロゲスチン配合でしたが、スリンダ錠はプロゲスチン単剤型(日本初のミニピル)です。そのメリットとしてまず挙げられるのが、血栓症(静脈血栓塞栓症)のリスク低減です。エストロゲンは血液を固まりやすくする作用があるため、従来ピルではごくまれに血栓症の副作用リスクが問題となっていました。しかしスリンダ錠は合成エストロゲンを含まないため、血栓症の副作用リスクが混合型ピルに比べて少ないと報告されています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでも、エストロゲン配合ピルが使用できない女性にはプロゲスチン単剤ピル(ミニピル)が推奨度が高い避妊法と位置づけられています。

またエストロゲンを含まないことで、これまで低用量ピルで問題となっていた副作用が起こりにくい可能性があります。例えば、エストロゲンによる吐き気・乳房の張り・偏頭痛悪化・血圧上昇などのマイナートラブルに悩まされてピルを中止した方でも、スリンダ錠であればこうした症状が現れにくいことが期待されます。実際、従来ピルでしばしば見られる吐き気はスリンダ錠の臨床試験では発現率が低めです(※吐き気5%程度)。また、ドロスピレノンは先述のように抗ミネラルコルチコイド作用があり体内の余分な水分を排出しやすくするため、エストロゲンによるむくみ体重増加を抑える効果も期待できます。

一方で避妊効果の面では、スリンダ錠と従来ピルに大きな差はありません。前述の通り、正しく使えばスリンダ錠の避妊成功率は従来の低用量ピルと同等の99%以上です。「エストロゲンが入っていないから効き目が弱いのでは?」と不安に思う必要はありません。世界的にも既に59か国以上で承認・使用されている実績がある信頼できる避妊法です。

スリンダ錠が適している人(これまでピルが使えなかった人へ)

スリンダ錠は、これまでエストロゲン配合のピルが体質的に使えなかった人にとって画期的な選択肢です。具体的には、以下のような方々がスリンダ錠の恩恵を受けられる可能性があります。

  • 35歳以上で喫煙習慣がある方:従来のピルでは35歳以上の喫煙者は血栓症リスク増加のため内服に注意が必要でした。スリンダ錠はエストロゲンを含まないため、こうした方でも安心して服用していただけます。
  • 血栓症リスクのある方:過去に深部静脈血栓症や肺塞栓症を起こした方、血栓を起こしやすい体質の方(抗リン脂質抗体症候群など)は従来ピルは避ける必要がありました。スリンダ錠は静脈血栓塞栓症のリスクが少ないため代替策として検討できます。
  • 高血圧・肥満・脂質異常症など生活習慣病のある方:これらもエストロゲン配合ピルだと血管イベントの危険因子となり得ました。スリンダ錠は肥満や高血圧の方にも推奨度が高い経口避妊法とされています。
  • 前兆を伴う片頭痛持ちの方:目の前がキラキラしてから片頭痛が起こる方はエストロゲン剤で悪化・発作誘発の恐れがあり禁忌でした。ドロスピレノン単剤なら相対的に安全と考えられ、使用可能です。
  • 40歳以上の中高年の方:40代で低用量ピルを内服することは血栓症のリスクが高くなることがわかっています。血栓症のリスクの少ないスリンダ錠は更年期に入る前の避妊法として選択肢となります。

以上のように、喫煙者・高齢・持病あり等で「ピルは無理」と言われていた女性にも避妊法の選択肢が増えたことが、スリンダ錠の大きなメリットです。もちろん最終的な適応判断は医師が行いますが、「これまでピルを諦めていた方」にぜひ相談いただきたいお薬です。避妊目的だけでなく、生理痛や過多月経で苦しんでいるけれど従来治療が合わなかったという方にも、新しい可能性としてスリンダ錠は検討する価値があります。

主な副作用と使用上の注意点

スリンダ錠の主な副作用としては、まず不正出血(予定外の出血)が非常に高頻度に起こります。臨床試験では約90%近い女性に月経中間期の出血(スポッティング)が見られたとの報告があります。多くの場合は少量の出血が断続的にみられる程度で、特に服用初期の数か月に集中し、その後は身体が慣れて出血頻度が減少することが多いです。不正出血が続く間も避妊効果は保たれていますので、慌てず服用を継続してください。もし出血が長引いて心配なときは処方医にご相談ください。

次に多い副作用は頭痛です。試験では16.3%に頭痛がみられました。従来のピルでも頭痛はありますが、スリンダ錠でも注意が必要です。軽度であれば様子見で構いませんが、我慢できない偏頭痛様の頭痛が出る場合は服用を中止し医師に相談してください。

そのほか報告頻度が高かった副作用には:

  • 腹痛・下腹部痛: 約13%に下腹部の鈍痛や腹部不快感が報告されています。生理痛が軽減する反面、不正出血に伴う軽い腹痛を感じる方がいるようです。
  • 月経異常: 約11〜15%に月経過多・月経延長など月経周期や量の変調(いつもより経血が多い/少ない、ダラダラ長引く等)が見られました。大半は一時的なもので、服用を続けるうちに周期が安定してきます。
  • 消化器症状: 悪心(吐き気)は5%程度、下痢は数%報告されています。従来ピルに比べると頻度は低めですが、体質によっては軽い吐き気を感じることがあります。食後に服用するなど工夫すると症状軽減する場合があります。
  • 乳房の張り・乳房痛: 少数ですが乳房の張り、圧痛、不快感を訴える方もいます。エストロゲンが入らない分程度は軽いとされていますが、気になる場合は検診時に相談しましょう。
  • 気分の変動: 稀にイライラ感や抑うつ気分などメンタル面の変化が起こることも否定できません。これもホルモン剤全般に言える副作用ですが、ひどい場合は無理せず医師に相談してください。

以上が主な副作用ですが、特に不正出血は「最初のハードル」と言えます。裏を返せば「きちんと薬が効いているサイン」とも取れますので、多少の出血は心配いりません。しかし長期間にわたって大量の出血が続く場合や、その他「おかしいな」と感じる症状があれば遠慮なく医療機関を受診してください。

使用上の注意点: スリンダ錠を安全に効果的に使うために、以下のポイントにも注意しましょう。

  • 毎日同じ時間に飲む: 飲み忘れ防止と血中ホルモン濃度の安定のため、服用時間をできるだけ一定にしてください。就寝前や朝起きてすぐなど習慣化しやすい時間がおすすめです。万一時間が多少前後しても、24時間以内なら効果に大きな問題はありませんが、遅れがちになると効果低下の恐れがあるため注意しましょう。
  • 他の薬との飲み合わせ: 一部の薬剤(抗生物質や抗てんかん薬など)にはピルの効果を減弱させるものがあります。新たに薬を飲む際は必ず「ピルを服用中」であることを医師・薬剤師に伝えてください。
  • 性感染症に注意: ピル全般に言えることですが、経口避妊薬はHIVやクラミジアなどの性感染症を防ぐ効果はありません。避妊目的ではコンドームが不要になるメリットがありますが、性感染症予防のためには引き続きコンドームの使用が推奨されます。パートナーとの関係性やリスクに応じてご留意ください。
  • 定期検診を受ける: 長期にわたりピルを服用する場合、年に1回程度は副作用チェックや婦人科検診を受けるのが望ましいです。特に血栓症リスクは低いとはいえゼロではないため、脚のむくみや息切れ、胸痛など気になる症状があれば早めに受診しましょう。
  • 保管と取扱い: ピルは高温多湿を避け、直射日光の当たらない場所に保管してください。シートから取り出した錠剤は劣化しやすいので、飲む直前にPTPシートから押し出すようにしましょう。

最後に、スリンダ錠は処方せん医薬品です。必ず医療機関で医師の診察のもと処方してもらう必要があります。自己判断で入手・服用することは避け、正しい使い方の指導を受けてください。


当院(坂本レディースクリニック)でもスリンダ錠の処方が可能です。「低用量ピルは合わなかった」「持病があって避妊をあきらめていた」という方も、ぜひ一度ご相談ください。患者様一人ひとりの体質やニーズに合わせ、安心して使えるよう丁寧にサポートいたします。スリンダ錠は新しい選択肢として皆様のQOL向上に役立つ可能性があります。当院でも適切な診療のもと処方しておりますので、興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。アンチエイジング、美容医療、健康マニア。話題の美容医療はだいたい試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけをお手軽価格で提供してます。なんでもご相談下さい!