結論:性交経験のない女性は子宮頸癌検診を受ける必要がありません。

子宮頸癌検診の診療に携わっていると、必ず聞かれる質問の一つが、「性交経験はまだないんですが、子宮頸癌も心配です。子宮頸癌検診を受けるべきでしょうか?」です。

こちらの回答に自信をもって回答できる検診施設はほとんどないと思われますし、産婦人科専門医の医師でも実際どうすればいいのかわからないという人も多いと思います。

結論からいうと、「性交経験のない女性が子宮頸癌検診を受けるメリットはほとんどないのにかかわらず、内診の侵襲や苦痛が強いため、検診を受けるデメリットの方が圧倒的に多い」です。

そのため、不正出血などの症状のないことが前提でいえば、性交経験のない女性は子宮頸癌検診を受ける必要はありません。その理由をこれから説明します。

子宮頸癌の原因はヒトパピローマウイルス(HPV)

子宮頸癌の原因はハイリスク型のHPVであることは科学的に証明されています。HPVは性交渉で人から人へ感染するタイプのウイルスであるため、性交経験のない女性は、HPVに感染していないと考えられます。発癌の原因のウイルスに感染していない女性が子宮頸癌になる可能性は非常に低いといえます。

HPV以外が原因の子宮頸癌もありますよね?

産婦人科の医師の中には、HPV以外が原因で起こる子宮頸癌もあるから子宮頸癌検診をすべきではないのかと考えて性交未経験者にも検診を行う医師もいらっしゃいます。たしかにHPVが原因ではない特殊なタイプの子宮頸癌は非常に稀ですが、存在します。それらの癌を検診で見つけるために検診を行うことは一つの考え方ですので、その検査の意義を十分に説明してインフォームド・コンセントを取得した上で性交未経験者に検診を行うことは検診の一つの考え方かもしれません。

HPV以外が原因の稀な子宮頸癌は検診でみつけにくい

しかしながら、HPV以外が原因で発生する子宮頸癌(最小偏奇腺癌など)は現在の子宮頸癌検診システムで検出するのは非常に困難だと言われています。子宮頸癌検診は、子宮頸部をブラシで擦って採取した細胞を顕微鏡でみて、癌があるか、もしくは前癌病変があるか、その可能性を検出する検査です。専門的な内容ですが、通常の扁平上皮系の癌は検診でみつかりやすい反面、腺癌系の癌を細胞形態の変化でみつけることは非常に難しく、実際に毎年検診を受けていたのに見逃されていた癌というのはこの腺癌系の癌が多いです。さらに稀な子宮頸癌である最小偏奇腺癌などの非HPV関連子宮頸癌を検診ベースで検出するのは非常に難しく、実際の検診でこれらの稀少癌を検出できる可能性は低いです。

そのため、性交未経験者に対して子宮頸癌検診を行ったとしてもこれらの稀な子宮頸癌を検診ベースで検出できる可能性は低く、性交経験のない女性への内診の苦痛を考慮すると、

性交経験のない女性が子宮頸癌検診を受けるメリットはほとんどないのにかかわらず、検診を受けるデメリットの方が圧倒的に多いため、検診は勧められないという結論になります。

性交未経験でも症状があれば婦人科受診が必要です。

ここまでの話は、あくまでも検診に限った話になります。不正出血などの症状がある場合は、癌検査が必要になることもありますので、性交経験がなくても早い段階で婦人科を受診することをお勧めします。受診の際に、医師でもスタッフでも誰でもいいので「性交経験がなく、内診に不安がある」と事前に伝えて頂ければしっかり配慮して診察してもらえるはずです。私たち医療従事者は慣れていますので、心配しなくても大丈夫です。

当院では、来院されるすべての患者さんに対して事前問診で性交経験の有無と内診に不安がないかを確認しています。性交経験のない女性、内診に不安がある患者さんに寄り添った診察を心がけていますので安心して受診してください。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!
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