肥満に対する漢方治療のポイント

  • 同じ肥満患者でも、その人の体質に応じて漢方を使い分けることが重要
  • 漢方治療は肥満だけではなく、そのほかの疾患の症状も同時に改善することが期待できる(異病同治)
  • 効果を認めない場合には処方の見直し・漢方薬の調整が必要になるため、漫然として継続投与は避ける

肥満症とは

肥満症とは肥満に貴院ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に減量の必要があると判断される状態です。具体的な診断基準はBMIを指標に行います。

BMI=体重(kg)÷ 身長(cm)÷ 身長(cm)

BMIは22が標準とされ、BMIが25以上で肥満と診断されます。

とくにBMI25以上かつ糖尿病や高血圧、高脂血症などの肥満による疾病の合併症がある場合や内臓脂肪が多いタイプの肥満の方は深刻な病気につながることが考えられますので減量することが重要です。

減量に関する基本的な考え方

肥満症はさまざまな生活習慣病につながるため減量することが大切ですが、なかなか治療が難しい状態でもあります。太りやすい、痩せにくいというものは一種の体質の一つであるため、とくに私生活に気をつけなくても太らない人もいれば、どれだけ気を付けても太ってしまう人まで様々です。減量のために無理なダイエットを行い、体調を崩したりリバウンドしてしまう人も多く、多くの方が悩んでいます。

しかし残念ながら、この薬を飲めば何もしなくても痩せるといった薬は存在しません。

減量のためには、接種カロリーより消費カロリーを多くすることが基本であり、絶対です。そのためには食事制限をして接種カロリーを少なくする。そして、運動や筋トレをしてカロリーを消費するしかありません。食事を制限することで胃が小さくなり、食べすぎを防げますし、消化管の負担も軽減します。また、運動をすることで筋肉がつき、脂肪が燃焼しやすい体に変化していきます。

ですが、治療薬がまったくないわけではありません。

減量治療のための薬物治療について

実は肥満症に対して、エビデンスのある治療は存在します。

GLP-1作動薬:糖尿病に対する治療薬であるGLP-1作動薬が肥満患者の減量に非常に効果があることがわかっています。これらの薬は糖尿病に対する保険適応のある薬なので、糖尿病がない方がダイエット目的で使う場合にはすべて自費で治療を受ける必要があります。(ノボ・ノルディスクファーマ ウゴービ皮下注のみ肥満治療薬として保険適応を得ましたが、残念ながら患者選択基準が限定しているためほとんどの方は対象になりません。)

SGLT-2阻害薬:同じく糖尿病に保険適応のある薬剤です。腎臓でのブドウ糖の再吸収を阻害するというシンプルな作用の薬剤ですが、これにより体の中の余分な糖分が尿から排出されるのでダイエット効果が期待できます。こちらもダイエット目的には保険が適応されませんので、すべて自費となります。

マジンドール(サノレックス):食欲を抑える薬で、高度肥満(BMI35以上)の方にのみ保険適応になっています。深刻な依存性が問題になりますので、短期間の内服しかできません。

漢方薬:漢方は、上記の薬に比べると目にみえる減量効果はマイルドですが、運動や食事制限と併用することで体質に合った漢方を内服することで脂肪の燃焼効果を補助してダイエット効果を高めることが期待できます。漢方薬の大きなメリットは肩こりや不眠症、更年期障害、便秘、月経痛、関節痛、多汗症などのさまざまな症状にも効果が期待できて、さらに保険が使える点です。

漢方薬治療が合っている方

  • のぼせや冷えなど更年期の症状がある
  • 腰痛や月経痛が強い
  • 便秘で困っている
  • 浮腫みや多汗症がある
  • 月経不順や月経痛がつよい
  • ダイエットを試みているが、なかなか痩せられない
  • 医療ダイエットをしたいが、自費だと高額になるのが心配

上記の方で肥満治療を希望される方は漢方薬による治療を検討してもいいかもしれません。

肥満症に使う漢方薬と体質の目安

肥満症にかかわらず、漢方は体質に合わせて治療を行う必要があります。

肥満症によく使われる漢方薬は大柴胡湯、防風通聖散、防己黄耆湯が有名だと思いますが、それ以外にも通導散、桃核承気湯、五積散、三黄瀉心湯、大承気湯が使用されます。

いかに、それぞれの漢方薬と効果が期待できる方の体質と症状を記載します。

漢方名体質の目安症状の一例
大柴胡湯筋肉質で固太り、体力がある肝機能障害、不眠症、痔、糖尿病
防風通聖散太鼓腹、脂肪太り、体力がある、便秘傾向高血圧、動悸、肩こり、のぼせ、浮腫み
防己黄耆湯汗をかきやすく、水太り、体力がない浮腫みや尿量が少ない、関節痛、月経不順
通導散下腹部が張る、便秘、体力がある高血圧、更年期、腰痛、月経痛、便秘
桃核承気湯のぼせやすい、便秘、月経血の色が濃い更年期、便秘、めまい、肩こり、イライラ
五積散のぼせやすい、冷えやすい、下痢傾向、体力がない更年期、冷え、頭痛、関節痛、神経痛
三黄瀉心湯顔面が紅潮しやすく、便秘、体力がある高血圧、肩こり、頭痛、便秘、更年期
大承気湯汗をかきやすく、お腹が張る、便秘高血圧、便秘
引用:高山宏世著 漢方常用処方解説

このように肥満症に使う漢方だけでも複数あります。処方のポイントは体質に合わせて処方することと肥満以外の周辺症状の改善に期待して治療を行う点です。

大柴胡湯や大承気湯は男性に使うことが多いのに対して、その他の漢方薬は更年期や月経周期による不調を訴える女性に使用することが多いです。太鼓腹で便秘傾向がある女性には防風通聖散、体力がなく汗をかきやすい水太り体質で月経不順や関節痛のある女性には防己黄耆湯、更年期症状があり便秘傾向な肥満の女性には桃核承気湯、更年期で下痢をしやすく体力がない女性には五積散を使う、などその方の体質とお困りの症状に合わせて治療薬を選択します。

まとめ

GLP-1作動薬やSGLT-2作動薬など医学的根拠に基づいた医療ダイエット治療がありますが、漢方薬は保険が適応になり、かつ肥満以外の周辺症状の治療効果が期待できるメリットがあります。

漢方を内服するだけで何もしなくても勝手に痩せる、といった便利な治療ではありませんので、あくまでダイエットの補助として食事制限と運動を併用していてがんばりましょう。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!