当院では多彩な症状を訴える患者さんに対して、保険適応のある漢方薬を積極的に診療に取り入れて治療をしています。実は、漢方は医学部の授業ではほとんど教わることがなく、臨床研修でも学ばないため、漢方薬を正しく理解しているドクターは多くありません。漢方なんて効かないと思って漢方を一切使わない方針のドクターもいます。いろんな考え方の先生がいて当たり前なので、漢方を全く使わない方針はそれで素晴らしいと思いますが、私自身は多彩な症状で困っている患者さんの治療に漢方薬は有効だと考えているので積極的に日常診療に取り入れています。いろんな情報や考え方があるので、患者さんもほんとうに効くのかな?大丈夫かな?と心配される方もいらっしゃいます。そこで、ここでは漢方薬に対してよくいわれる以下の3点の質問について、私なりの考えを記載したいと思います。

  1. 漢方は長期間飲み続けないと効かないでしょ?
  2. 漢方は効かないし、気休めでしょ?
  3. 漢方はエビデンスがないでしょ?

  1. 漢方は長期間飲み続けないと効かない

これは患者さんがよく勘違いされている点です。まったく症状の改善のないまま、処方された薬を「漢方だからすぐには効かないと思うし、もう少し飲み続けてみよう」と頑張って内服し続けている方がいます。しかし結論からいいますと、すぐに効果がでない漢方薬は長期間内服しても効果がない可能性が高いです。理由は二つあります。一つ目の理由は、患者さんの体質によって効く漢方薬が異なります。これは西洋医学の薬にはない考え方ですが、例えば、体力のある大柄の方と体力のない小柄な人、暑がりな方と冷え性な方、むくみやすい方とそうじゃない方では効果のある漢方薬がまったく異なります。つまり、効かない漢方薬は体質に合っていない可能性が高いので、体質に合わない漢方を飲み続けても効果は期待できません。もう一つの理由は、実は漢方は非常に即効性があります。体質に合っている漢方薬を内服した場合、2週間以内に症状が改善することが見込めます。そのため、漢方治療では①体質に合う漢方を選ぶ②2週間程度内服して効果がなければ薬を見直すことが必要です。

2. 漢方は効かないし、気休めでしかない

これも1. と重複する部分がありますが、体質に合わない漢方薬は効き目が期待できないので、気休めにしか感じないのは無理もありません。たとえば、体が火照りがちな患者さんの症状に対して、体をあっためる作用のある生薬が入った漢方薬を使うと効かないどころか体調を崩しかねません。一方で、同じ薬を冷え性の患者さんに使うと一気に症状が改善することがあります。このように同じ漢方薬であっても、効果がある人と全くない人に分かれるので、体質に合う漢方が処方されなかった場合は、「漢方なんて気休めでしょ」と感じてしまうかもしれません。しつこいですが、患者さんの体質を見極めて漢方薬を選択する必要があります

3. 漢方はエビデンスがない

これは漢方薬をあまり使わない先生がおっしゃられることが多いかもしれません。これは、実はその通りで、漢方治療に対するエビデンスはないのが事実です。エビデンスとは医学的に妥当な医療が行われる根拠という意味です。例えば、Aという薬の効果を確認したいときは、たくさんの患者さんをグループ①とグループ②に分けて、グループ①の患者にはA薬を内服される。そしてグループ②には中身の入っていないカプセル薬(これをBとします)を内服させて、そのあとの効果をグループ①②で比較します。Aという薬の効果を証明したいと考える人がいた場合、Aの薬が効き易そうな人を選んで薬を投与してしまうと実際の効果がわからなくなってしますので、この試験をする前提として、薬を出す医師と内服する患者さんは、自分がどちらの薬を内服するかわからないようにします(これを盲検化といいます)。この盲検化が厳しければ厳しいほど、バイアスが排除され、医学的に根拠のある結果と判断されます。一方で、漢方薬は患者さんの体質を見極めて処方を行うことが投与する前提条件となります。そのため、患者さんを無作為にグループに振り分けて、薬を投与するという盲検化した試験を組むことが不可能なのです。そのため、漢方薬にはエビデンスがないというのは事実になります。しかし逆にいえば、個々人の体質に対して使用する漢方薬はエビデンスよりも使用する医師の知識や経験がより重要になります。そもそも漢方薬は日本が保険適応と認めたお薬です。効かない薬、気休めの薬が保険適応になることはないと思います。

最後になりますが、私は漢方薬が西洋医学に対して優れているということを伝えたいのではありません。西洋医学にはしっかりとしたエビデンスがありますので、治療の中心はあくまで西洋医学の薬なのは間違いありません。しかしながら、漢方薬には西洋医学にはない長所が多くあり、西洋医学の手が届かない症状にすっと手が届くような治療です。実は西洋医学と漢方薬の相性はとてもよく、併用することで相乗効果が期待できますので、両者をうまく使いながら診療に生かすことが大事だと考えています。

まとめ

  • 漢方薬は患者さんの体質に合ったものを選択するものが何より大事
  • 内服してみて効果が乏しい場合は、早期に漢方薬の変更を検討する
  • 西洋医学も漢方医学もそれぞれいいところがあるので、うまく使いこなすことで相乗効果が期待できる

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!
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