これまで行ってきたHPV研究について

こんにちは。院長の坂本です。

院長ブログを立ち上げて2か月目、もうネタがなくなってきてピンチです。

この院長ブログを読みにきてくれた方は、少なくとも私に何かしらの興味を持ってきてくれている奇特な方だと思うので、今日のブログでは私がこれまで行ってきた医学研究とその実績について書きたいと思います。

医学研究に関しては、なかなかの実績があると自分では自負していますので手前みそな内容になってしまうことを始めに申し上げておきますが、厚生労働省などの公的な啓発ページや子宮頚癌ワクチンのリーフレットの多くに私の名前と研究データが載っています。googleで【sakamoto j HPV】で検索すると公的機関のサイトが山ほど出てくると思います。

厚生労働省 HPVワクチンについて知ってください(4ページ)

厚生労働省 9価HPVワクチンの概要

私は別に研究をしたくて医者になったわけではありませんが、最初はなりゆきで始めた医学研究でもやってみると案外面白くて夢中になりました。研究のボスが、駆け出し研究者の私に与えた研究テーマは子宮頚癌の原因になるHPVでした。

簡単に解説すると、子宮頚癌はHPVというウイルスが原因で起こります。この原因のHPVを予防するのがいわゆる子宮頚癌ワクチン(HPVワクチン)です。子宮頚癌ワクチンというと怖い副作用のイメージが残っている方も多いかもしれませんが、そのあとの追跡調査で副作用といわれていたほとんどはワクチンと関係ないことがわかり、日本を始め、世界でもワクチンの副作用がほとんどなく、安全なことが証明されています。

ブログの内容からは少し脱線しますが、重要なことなので記載しますが、この子宮頚癌ワクチンの予防効果は非常に高く、接種するだけほとんどの子宮頚癌を未然に防ぐことができます。そのため、接種率の高い先進国では、子宮頚癌という病気が近い将来なくなると予想されています。ワクチンに対する過剰な報道と悪質なデマで日本の若い女性のワクチン接種率が低いことが国際的な問題になっております。

国によるしっかりとした検証で安全性は確認されましたので、2022年4月から約9年ぶりに定期接種の積極的接種勧奨が再開されています。理解されていない方が多いと思われますが、子宮頚癌ワクチンは、日本脳炎やBCG、四種混合ワクチン、麻疹風疹ワクチンなどと同じ定期接種のワクチンです。任意接種ではありません。対象となる女児全員が打つべきワクチンです。小学校6年生から高校1年生の女性には接種券が配られていると思いますので、必ず親御さんが確認するようにしてあげてください。

話を戻します。私はこのHPVの研究を始めた頃は、HPVワクチンができたからもうHPVに関する研究では新規性のある研究はもうこれ以上ないよねという雰囲気がありました。その中でセンセーショナルな副反応の報道がおきて、HPVの研究をしているというだけで過激な反ワクチン運動家から攻撃されたりということがあり、HPVの研究をする人がほとんどいなくなって、誰にも注目されず、学会に参加しても肩身が狭いという時期が何年間も続きました。

ですが、私は世界で子宮頚癌の原因として報告されているHPVの種類と日本の子宮頚癌の原因になるHPVの種類は本当に全く同じなのだろうか?とずっと疑問に思っていました。違う種類のウイルスが原因ならば、海外製のワクチンは日本人には効かないよね?本当に日本人に効果があるのか、日本のデータを明らかにしないと結論はいえないよね?と思っていました。その当時、日本の子宮頚癌のウイルスを調べて世界と比較している人はほとんどいませんでした。私は日本の子宮頚癌を集めてその中のいるHPVをすべて網羅的に調べ始めました。

大学病院で忙しく毎日医者の仕事をしている毎日であり、田舎の弱小大学病院には研究費もほとんどなかったので、仕事が終わった後に毎日研究室に行って癌を削って、DNAを抽出してHPVを判定して1時か2時くらいに家に帰って、また次の日の朝7時に研究室でデータをまとめて9時から医者の仕事をするという生活を地道につづけてました。なかなか結果が出ないのこの時期に「そんなことやってなんの意味があるの?」とか「新規性なくない?」なんて学会などいわれ続けて本当にこのままやり続けていいのか逡巡していたことを覚えています。

そのうちにデータが出そろい始めると、どうやら私の疑問に思っていたとおり、日本と海外のHPVの分布には違いがあることがわかりました。具体的には、最も癌の原因になるHPV16、HPV18(ワクチンで予防できるタイプ)が最も多いのは共通していましたが、そのほかのタイプに大きな違いがあることがわかりました。副次的にあきらかになったことは、日本の20代までの若い子宮頚癌患者さんの100%がこのHPV16、HPV18であったことでした。

その研究以外にも、複数のHPV感染癌においても癌の原因は1種類のウイルスであることを組織学的に明らかにしたり、HPVが陰性とされた症例の中にも実はHPVが隠れていた、などの発見を論文化して英文雑誌に投稿してきましたが、結局、この日本のHPV分布データが私の行った一番大きな仕事になりました。

この結果により①日本女性にも現行の子宮頚癌ワクチンが非常に効果があること、②とくに若い世代の癌の予防に重要な役割を示すことが示唆されました。思い上がりかもしれませんが、このデータの裏付けが日本における子宮頚癌ワクチンの定期接種の接種勧奨再開につながった一つのエビデンスになったと思いますし、一医者にしか過ぎない自分が目の前の患者さんだけではなく、結果的に多くの女性の命を救う一助になれたのではないかという誇らしい気持ちがあります。大変でしたが、本当に研究をしてよかったと心から思います。

ここまで長々と自分の業績について語ってしまいましたが、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。研究のことや自分にの実績に関することは、普段誰にもお話する機会がないもので、せめてということで自分のブログに綴ってしまいました。

長くなりましたが、最後に子宮頚癌ワクチン(HPVワクチン)における医学的根拠に基づいた客観的データを羅列します。

  • 海外のHPVワクチン接種率:アメリカ61%、カナダ87%、イギリス83%、オーストラリア82%
  • ワクチン接種率が高い先進国では著しく子宮頚癌が減少している
  • 日本では年間3000人が新たに子宮頚癌になっており、若い世代で増加傾向にある
  • 現行の9価ワクチンを打つだけで日本人の子宮頚癌の81~90.7%を予防できる
  • 子宮頚癌ワクチンが安全であることは徹底的に検証され続けている
  • ワクチン接種後に生じた重篤な副反応の報告は9価ワクチン接種1万人あたり約3人である
厚生労働省 HPVワクチンについて知ってください

ちなみに、インフルエンザワクチン接種後の重篤な副反応の報告は接種1万人あたり約15人であるという数字からも子宮頚癌ワクチンのみが恐ろしい重篤な副反応を生じるワクチンではないことがわかります。子宮頚癌は本当に悲惨な病気ですが、ワクチンを打つだけで守れる命があります。娘さんをお持ちの方は子宮頚癌ワクチンについての情報を調べるようにしてください。情報を調べる場合は、必ず厚生労働省や各自治体が発行している公的な情報、リーフレットで調べるようにしてください。疑問や不安があれば、わかりやすく説明させて頂きますので何でもお訊ねください。

前の記事
てんてこまいです。