更年期障害に対するホルモン補充療法

更年期女性に出現するさまざまなつらい症状に対しては、女性ホルモンを補充するホルモン補充療法がとても効きます。ホルモン補充療法には強固な医学的エビデンスのある治療法であり、更年期症状の改善のほかにも様々な副効用がある一方で、いくつか注意する点もあります。注意する点があるからこそ、「自分はいつまでホルモン補充療法を続けるべきなんでしょうか?」と疑問に思われる患者さんもいます。治療に対する考え方はドクターや施設によっても様々だと思いますが、ここでは医学的根拠に基づいたホルモン治療の治療期間の目安について解説させて頂きます。

ホルモン補充療法のメリット

ホルモン補充療法は、更年期に特徴的な発汗やのぼせの改善に効果を認めるだけではなく、様々な副効用が期待できる治療法です。

  1. 骨代謝に影響して骨密度を維持する(骨粗鬆症の予防)
  2. 脂質代謝の改善(高脂血症の予防)
  3. 更年期のうつ症状を改善
  4. 皮膚のしわを減らしハリをふやす
  5. 膣のうるおいを維持して膣の萎縮を予防する(泌尿器生殖器の症状の改善)

ホルモン補充療法のリスク

様々な効果が期待できるホルモン補充療法ですが、いくつかのリスクと注意点があります。

子宮体癌

女性ホルモンの暴露は子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクになります。子宮を有する患者さんは、女性ホルモン製剤とともに黄体ホルモン製剤を使用することでそのリスクを低減することができます。黄体ホルモン製剤の投与方法は①定期的に月経を起こす周期投与と②出血を起こさない維持投与を選択します。

わずかにリスクがあがる可能性のある疾患:乳癌、静脈血症

乳癌

ホルモン補充療法により乳癌のリスクがわずかに上昇することがこれまでの研究から明らかになっています。ホルモン補充療法の治療期間によりリスクが増加することがわかっており、通常の治療期間ではそこまでリスクが増えるわけではありません。総合的には、乳癌に対するホルモン補充療法のリスクは限定的であり、また、ホルモン補充療法中止後にはそのリスクが減少することが明らかになっています。

静脈血栓症

ホルモン補充療法により静脈血栓症のリスクが増えることがわかっています。一方で、経皮吸収型のエストロゲン製剤を用いた治療においては、静脈血栓症のリスクが増えないことが報告されています。

ホルモン補充療法の影響がわかっていないもの

  • アルツハイマー病や認知症に関する影響は、これまでにさまざまな研究がされてきましたが、認知機能によい影響をもたらす結果、悪い影響をもたらす結果、影響がない結果などがあり、一定の見解は得られていません。
  • 動脈硬化の予防効果に関しても一時期期待されましたが、現時点ではあきらかな治療効果は認められていません。
  • 尿失禁の治療に関しては期待されていますが、現時点であきらかな医学的な根拠はありません。

ホルモン補充療法をいつまで続けるべきか

ホルモン補充療法のリスクは限定的ですが、その治療効果とリスクの両方をよく理解して治療を受けることが大切です。医師の診察のもと、数年の治療期間では大きな副作用はでないと考えられますが、長期間の治療は様々なリスクの原因となります。一般的に、更年期の時期を過ぎて老年期に体のホルモンバランスが移行すると更年期症状が改善するといわれていますので、その時期を治療終了の目安にするとよいのではないかと考えます。更年期から老年期までの時期は個人差が大きいため、患者さんごとの症状や状況に合わせて適切な治療、治療期間を選択していくことが重要です。

まとめ

ホルモン補充療法には更年期障害の症状を改善させるだけではなく、様々な効能が期待できる治療法です。期待される治療効果に対するリスクは限定的ではありますが、リスクとベネフィットをよく理解して、患者さんごとに適切な治療、適切な治療期間を選択していくことが安全な治療につながります。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!
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