冷え症は女性に多い。

冷えは体質のひとつと考えられることが多く、冷え性を自覚していても「体質だからしょうがないよね」と諦めてしまっている方が多いように感じます。冷えが原因で生じる体の不調は多く、その症状は冷えを改善するだけでよくなることがあります。「冷えは体質」と片付けるのではなく、冷えをしっかり治療するという考え方が大切だと考えます。

とくに女性は男性よりも筋肉量が少ないため、体温が維持できずに冷え性を自覚する人が多いことがこれまでの研究からわかっています。

冷えの影響と症状

冷えはさまざまは病気のもとになりますので、冷えを放置しておくことはお勧めしません。冷えにより体の熱調節のバランスが崩れると体に大きな負担がかかり、自律神経失調や女性ホルモンのバランスが崩れてしまいます。腰回りが冷えることで腰痛や月経痛の増強、下痢もしくは便秘、嘔気、嘔吐などの消化器症状が出現することがあります。全身の冷えが強ければ血流障害が起き、肩こりや頭痛、鼻炎などが出現します。また、手足足先の末梢が冷えれば手先指先のあれや乾燥、ひび割れなどの症状が出現します。

このように、冷えは体のバランスを崩して様々な不調を引き起こしてしまいます。

冷え性のタイプ

冷え性といっても、 ①手足足先が冷える抹消型冷え性タイプ、②上半身はほてるのに、下半身が冷える冷え+のぼせタイプ、③全身が冷える寒がりタイプ、などさまざまなタイプがあります。

②は更年期の女性に多く認めるタイプで上半身はほてって汗をかくのに下半身が冷えてしまい、様々な不調の原因になります。①、③は全年齢の女性に多く認められます。

冷え性タイプとその特徴を簡単にまとめると以下のような人が典型的です。

①抹消型冷え性タイプ②冷え+のぼせタイプ③全身が冷える寒がりタイプ
手足が乾燥して荒れやすい肩こりがひどい胃腸が弱い、下痢をしやすい
浮腫みやすいイライラや気分が沈む腹痛やお腹の張りを感じる
肩こりがひどい喉が苦しい・詰まる食欲不振になりやすい
頭痛持ちめまいよく風邪をひく

気を付けるべき生活習慣

冷え性を改善するためには生活習慣をみなおすことが大切です。

  • 体を冷やさない服装を心がけましょう
    • とくに冬場は冷えやすいので靴下や手袋、腹巻やストッキングなどをして体の熱を逃がさないようにしましょう。
  • 運動習慣
    • 運動することで筋肉が熱を発して体が内部から温まります。また、運動することで筋肉量が増えて冷えにくい体に変化していきます。
  • 体を冷やす食事に気をつける
    • 食事が体に与える影響は大きいので注意が必要です。とくに体を冷やす食品(トマト、野菜、そば、豆腐など)は多くとりすぎると冷えの原因になるため気をつける必要があいます。一方、ショウガやネギ、根菜類、味噌や納豆、お肉や魚などは体を温める作用があります。風邪をひいたときに白湯にショウガとハチミツをいれて飲むと体が温まり楽になるのはこの食品の効果です。

生活習慣を気を付けるだけでも冷えの改善期待できますが、それでも冷えの改善がない方は漢方薬を使った薬物療法をお勧めします。

冷えに対する漢方薬治療

実は冷えを改善するための西洋薬はありませんが、漢方では冷えを改善するという考え方は非常に重要な治療指針の一つになります。漢方は患者さん一人ひとりの体質(証といいます)をみて処方を決定する必要があるため難易度は高いですが、自分に合った漢方薬がみつかれば冷えに関連した様々な不調が一気に改善することが期待できます。

たとえば、手足が冷えて肩こりや頭痛がある方に当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使うと冷えの改善とともに肩こりや頭痛まで改善することがあります。

冷えには様々な漢方薬を使うことがありますが、代表的なもの列挙します。

体質と症状漢方処方の一例
手足の冷えと乾燥四物湯(しもつとう)
手足の冷えに頭痛とめまい当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
手足の冷えに頭痛、下腹部痛当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
手足の冷えに肩こりと頭痛、嘔気呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
全身が冷え、下痢をしやすくふらつく真武湯(しんぶとう)
全身が冷え、疲れやすい、すぐ眠くなる、食欲不振補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
全身が冷え、貧血気味、体力がない、術後十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
全身が冷え、お腹が冷える、下痢しやすい、お腹が張る大建中湯(だいけんちゅうとう)
更年期(のぼせの症状が強い)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
更年期(イライラ、精神症状が強い)加味逍遙散(かみしょうようさん)
足腰が特に冷えて、唇が渇く、月経不順、不妊温経湯(うんけいとう)
胃腸がよわい、嘔気、頭痛、めまい半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
冷えによって腰痛、下腹部痛が強い、冷房に弱い五積散(ごしゃくさん)
引用:ジェネラリストのための女性診療BASIC

よくある質問

  • 冬だけ冷えます。冬だけ漢方を飲むとかできますか?
    • できます。冬にだけ漢方薬を内服して冷えから体を守るのは一つの治療方針です。逆に夏になると暑さで体調を崩すことがあるので、体の熱を冷ます漢方薬に切り替えたり臨機応変な対応が可能なことも漢方薬のメリットです。
  • 冷えに対して漢方薬を処方されて内服していますが、効果がわかりません。漢方は飲み続けないとダメだって聞いたことがありますが、このまま内服した方がいいですか?
    • 内服して改善を認めない場合は、体質に合っていない可能性があるので漢方薬の変更・調整を勧めます。また、勘違いされている方が大勢いますが、漢方薬は非常に即効性がある治療になります。2週間程度内服してみて効果を認めない場合は、飲み続けても無駄になることが多いので漫然と内服を続けるのはやめた方がいいです。
  • 漢方薬は保険が効きますか?
    • 当院で取り扱っている漢方薬はすべて保険適応です。薬局で同じ名前の漢方薬が販売されていますが、医師が診断して処方する医療用漢方の方が成分量が多く含まれています。また、1~3割の自己負担額で漢方薬を購入できるため、当院に受診されて漢方薬治療を受けられることをお勧めします。

まとめ

女性に多い冷え性は様々な不調や病気の原因になるため、治療が必要です。

生活習慣の改善が効果を認めますが、なかなか改善しない冷えには漢方薬治療の効果が期待できます。

漢方薬治療は患者さん個人個人の体質を診て処方を調整する必要がありますので、漢方内科に精通したクリニックの受診をお勧めします。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!