はじめに

 この記事では令和6年6月に日本で販売開始されたRSウイルス予防ワクチン【アブリスボ】について記事です。

 アブリスボがこれまでのRSウイルスワクチンと決定的に違う点は、【妊婦に接種することにより、新生児及び乳児におけるRSウイルスによる感染症を予防】できる点です。RSウイルス感染症は、ありふれた感染症であるのにかかわらず、多くの新生児・乳幼児に重症肺炎を引き起こしてきたウイルスです。さらに有効な治療法もないため、多くの子供が苦しんできた病気です。アブリスボの登場により、新生児と幼児をRSウイルスから守る選択肢が増えたことは周産期・新生児医療に携わる者として喜ばしい限りです。

 ここでは、RSウイルス感染症とはどんな病気か?なぜ新生児・幼児のRSウイルスを予防しなければいけないのか?アブリスボが承認されたことでどんな選択肢が増えたのか?アブリスボを打つべきか?といった観点からアブリスボを解説します。

RSウイルス感染症ってどんな病気?

 もしかすると、子育てをされたことがない方はRSウイルスといわれてもピンとこないかもしれません。RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染することによって起きる呼吸器の感染症です。患者さんによって軽い風邪症状から重い肺炎の症状まで様々です。

 RSウイルス感染症は、新生児や乳幼児がかかるウイルス性の風邪の主な原因の一つであり、ほぼすべての子供が2歳までに感染することがわかっています。

 年齢を問わず何度も感染するため、生まれたばかりの赤ちゃんから高齢者まで、幅広い年齢層で感染するといわれています。

RSウイルス感染症の特徴

  • 4~5日間の潜伏期間の後、発熱、鼻水などの上気道炎の症状が出現
  • 新生児・乳幼児が感染すると重症化する
  • 感染した30%の乳幼児では細気管支炎や肺炎の下気道炎を合併し、喘鳴や呼吸困難などの症状がみられる
  • とくに初めてRSウイルスに感染した赤ちゃん、早産児、免疫不全、ダウン症のお子さんは注意が必要
  • RSウイルス感染症で病院を受診した2歳未満児の4人に1人が入院になる
  • 重症未満児の90%がRSウイルスのリスク因子がない子ども
  • 現在、RSウイルス感染症に対する治療はないため、酸素投与や人工呼吸器で呼吸を助けながらお子さんが自分の免疫で治るのを待つしかない

 上記の特徴があるため、小さな子どもの命を守るために、RSウイルスを予防する必要があります。とくに重症化するリスクの高い早産児や免疫不全、ダウン症の赤ちゃんはRSウイルスの抗体(モノクローナル抗体製剤)であるシナジス(パリビズマブ)を直接投与するという予防手段がありましたが、一方で、正期産で産まれた健常児にはその適応はなく、RSウイルスを予防する手段が今までありませんでした。とくに重症化するのは本来リスクのないはずの正常児ばかりであり、その対応に苦しんでいた現場の医療者にとって、母子免疫をターゲットにしたアブリスボが登場したインパクトは大きいものでした。

アブリスボとは?

 アブリスボの登場によって、何が変わるか。端的に言うと、予防手段がなかった正常健常児のRSウイルスの予防が可能になります。アブリスボは、妊娠中のお母さんにワクチンを打つことでおなかの中にいる赤ちゃんにRSウイルスの抗体を届けることができます。その結果、赤ちゃんは生まれた瞬間からRSウイルスの抗体を持つことになり、生まれつきRSウイルスにかかりにくくなり、肺炎などの重症疾患を予防することができます。ワクチンの投与は、妊娠28週~36週の間に1回のみの接種です。

アブリスボの効能・効果

  • 妊婦への能動的免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防
  • 60歳以上の者におけるRSウイルスによる感染症の予防

報告されている副反応

  • ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
  • 疼痛、筋肉痛
  • 頭痛
  • 紅斑、腫脹

アブリスボを打つべきか?

 アブリスボの登場によって、生まれる前からおなかの中の赤ちゃんの命を守る選択肢ができました。すべての妊婦さんと赤ちゃんにとって、恩恵が大きなワクチンだと思います。私が調べた限り、とくに打つデメリットはないと思いますし、副反応のリスク以上に、小さなお子さんから重症な感染症を予防できるメリットが大きいワクチンだと考えます。とくに上のお子さんが小さいときにRSウイルスに罹患して苦しんだ姿をみている親御さんは接種を検討してみてください。

 坂本レディースクリニックでは、石川県内の妊婦さんを対象に、アブリスボのワクチン接種を承っております。アブリスボワクチンに関しては、完全予約制ですので、事前に当院までご連絡ください。また、アブリスボを打つかどうか迷っているというご相談にものれますので、まずは当院を受診してみてください。

投稿者プロフィール

坂本人一
坂本人一院長
大学病院で10年以上、診療と研究に従事してきました。産婦人科だけではなく、尿漏れや頻尿などの女性泌尿器疾患、高血圧や脂質異常症などの女性の生活習慣病の予防治療に力を入れています。漢方マニアです。美容医療が趣味で自分にもいろいろ試しています。当院では、自分がやってよかったと思える美容医療だけを厳選して提供してます。なんでもご相談下さい!